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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)43号 判決 1960年10月28日

判決

東京都中央区銀座東二丁目六番地

原告

三和産工株式会社

右代表者代表取締役

内 田   愈

右訴訟代理人弁護士

田 中 正 司

東京都豊島区巣鴨六丁目一、二〇〇番地

被告

富 田 俊 一

右訴訟代理人弁護士

重 田 光 明

右当事者間の昭和三三年(ワ)第四三号損害賠償請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求は、これを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訟訴代理人は、「被告は原告に対し金一五〇万円及びこれに対する昭和三三年一月二四日から完済までの間年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。

「一、原告は石炭販売等を業とする株式会社で、被告は二五年一〇月一日から昭和三〇年一一月三〇日まで原告会社の取締役であつたが、その在任中、被告は原告会社の取締役会議にもとずいて、石炭関係部門の業務担当取締役となり、原告会社の同族会社である三和炭鉱株式会社の採掘する石炭を買付け、これを販売し及び原告会社の従業員を監督すること等の業務を担当し、特に原告会社の福島県郡山出張所に関する業務の指揮監督は被告の専任担当するところであつた。

二、然るに、昭和二八年二月五日頃から昭和三〇年一月三一日頃までの間に右郡山出張所訴外南条吉巳は原告会社石炭販売代金約五五八万円を着服横領した。

三、被告に、前記の業務担当取締役として、忠実義務又は善良な管理者の注意義務をつくせば、右横領行為を容易に発見しその損害を防止できたにかかわらず、右義務をつくさなかつたため原告に対し右横領金額五五八万円の損害を被らせるにいたつた。

被告の右義務違反は次のとおりである。

(一)  被告は前記業務を担当する取締役として毎月一、二回郡山出張し同出張所の石炭販売業務を直接指揮監督していた。この出張の都度前記義務をつくし、同出張所の書類、帳簿及び実際の取引を検査監督し、特に同出張所への送炭量と同出張所の販売量との差及び得意先未収代金を調査し、並びに同出張所長南条吉已の行動を注意していたならば、前記横領の事実を容易に発見できたのであるが、この義務を怠り原告に対し右出張所に事故がない旨報告していた。

(二)  右郡山出張所は原告本社に対し日報及び月報等による業務報告をしており、被告は前記業務担当取締役として右業務報告を調査監督すべき任務を有していた外、右出張所の業務報告の大部分が虚偽であつたのに、被告は前記義務を怠りその虚偽を発見できず、前記南条の横領行為を看過した。

四、以上のとおり被告は取締役としての忠実義務又は善良な管理者の注意義務を怠り原告会社に対し前記横領額五五八万円相当の損害を与えたから、この損害額の内金一五〇万円及びこれに対する本件訴状の被告に送達された日の翌日である。昭和三三年一月二四日から完済までの間年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴に及んだ。」

立証(省略)

被告訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

「請求原因事実のうち原告が石炭販売等を業とする株式会社である点、及び被告が原告の主張する期間原告会社の取締役であつた点は認めるが、その他の点は否認する。」

立証(省略)

理由

原告が石炭の販売等を業とする株式会社であること、及び被告が昭和二五年一〇月一日から昭和三〇年一一月三〇日までの間原告会社の取締役であつたことは、当事者間に争がない。

そこで、被告が原告の主張する業務を担当する取締役であつたかどうかを判断する。そもそも取締役は商法上単に取締役会の構成員として、会社の業務執行の意思決定に参与する権限を有するにとどまり、取締役として当然会社の業務を執行する権限を有するものではない。取締役がこの権限を有するためには取締役会の決議により、代表取締役に選任せられるか、又は定款、取締役会の決議によつて業務執行の権限を与えられなければならない。本件について見ると、被告が取締役であるとともに営業部長をも兼ねていたことは、(中略)によつて認められるが、しかし、営業部長という職名は通常会社の商業使用人としての職名であつて、取締役兼営業部長とは、取締役会の決議に参加し、他面商業使用人である会社の営業部の長として、その業務に従事するものと解するのが相当であるから、ただ被告が取締役兼営業部長であつたという事実だけでは、被告が取締役として原告の主張する業務を担当していたと認めることはできない。そうして前記寺田及び南条の各証人は、被告が原告会社の石炭関係一切の業務を担当し、原告会社の福島県郡山出張所の業務を指揮監督していたと陳述しているが、これは商業使用人としての営業部長の地位に基く趣旨と認むべきかは別として、仮りに取締役の地位に基く趣旨とするも、右各証言に原告会社の定款又は取締役会の決議に基いたものであるかを明らかにしない。その他被告が取締役として定款又は取締役会決議に基いて原告主張の業務を担当したと認めるに十分な証拠はない。

以上述べたとおり、被告が取締役として原告主張の業務を担当していたとの証拠はないから、この業務を執行するについて取締役として任務を懈怠し原告に損害を与えたことを請求原因とする本訴請求は、その他の点を判断するまでもなくその理由がない。よつて、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長 裁判官 長谷部 茂 吉

裁判官 上 野   宏

裁判官 玉 置 久 弥

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